今回の出張先はエジプト・カイロ。エジプトは言わずと知れたアフリカ大陸の北側にあるアラブ系の国。その中でもカイロは、アラブ世界及び中東を代表する世界都市のひとつで、アラブ連盟の本部所在地でもあり、まさにアラブ文化圏の中心都市です。今回この商社マンは、タイヤの中古チューブ買い付けで訪れたようですが、ピラミッドやカイロの街並みを眺めて何やらヒラメイタようです。早速様子を覗いてみましょう。
2007年11月某日
商談を控えた当日の朝、時間が取れたのでカイロ郊外の有名なピラミッドとスフィンクスを見に行った。
実際郊外といっても、カイロ市から車で20分のところにある。
まずピラミッドの外観だが、遠目には美しい四角錐に見えるのだが、近寄るとその巨大な四角錐はブロックが積み上げられていて、その一つ一つのブロックが大きい。よくもまあ、こんな巨大なブロックを積み上げることができたと太古の技術と執念に感嘆せざるを得ない。
裏側には広大な砂漠が広がっていて、ピラミッドの神秘的な姿を浮き立たせている。一方前側には結構近くに国際都市カイロの街を望むことができ、砂漠と街に挟まれたピラミッドは、まるで太古と現在をつなぐタイムマシンのごとく、その存在を主張している。
ピラミッドエリア自体への入場料が160エジプトポンド(約1040円、1EGP=約6.5円換算)。 クフ王のピラミッド内部の見学は別途360EGP(約2340円)で、スフィンクスエリアの入場料が100EGP(約650円)。それなりの入場料だが、せっかく来たのだから、クフ王のピラミッドの中に入る。
通路の天井高も低く、ほんと狭い。閉所恐怖症の人にはお勧めできないと思いながら登った。盗掘人の掘った通路からピラミッドの正規の通路「上昇通路」へ。これもまた狭い。足場は観光用に滑り止めがしてあるが、手すりがあったのでなんとか昇れるような状態だ。50mくらい進んだであろうか、いきなりあの有名な大回廊に出た。回廊は天井までの高さが8.4m幅の広い石が、段々にせり出してその高さを作っている。傾斜は上昇通路と同じでかなりきついが、天井高があり屈まなくていい分楽かもしれない。
斜面を粘り強く登り続けようやく王の間へ。薄暗い王の間を、持っているポケットライトで見て回る。もっとも、中には「石棺」と呼ばれている物しかない。角が欠けた「石棺」は思いのほか小型で、この大きさでは大人は収まらないと思った。無機質な王の間は蒸し暑く息苦しい。しかし、そこによどむ空気は太古のものなのか。王の間でしばらくの間、紀元前3000年頃に始まった古代エジプトの幻想に身をゆだねていた。
カイロに戻ると、早速気持ちをビジネスに切り替える。
取引先は中小企業だが、いい人で、初対面にもかかわらずアジア人の自分をやさしく迎えてくれた。
エジプトはアラブ世界と知ってはいたものの、イスラム教のお祈りの時間になると、取引先の社長が商談を中断して床にじゅうたんを敷き始めたのには驚いた。すべての人々がメッカの方を向いて、コーランの教えに従い、いつものお祈りを始めるのだ。礼拝時間は10分程度とはいえ、その間社長の祈る姿をながめてぼうっと時間を過ごす。それが終わってやっと商談の続きを始められた。
イスラム教徒というのはみな1日5回も時間通りに礼拝をしていると聞く。正午を過ぎれば、午後、日没前、就寝前と立て続けに礼拝がやってくる。その間は2~3時間ほどしかない。時間通りにやろうと思えば、何かに集中して取り組もうにも難しいのではないだろうか。宗教が生む人々の生活習慣の違い。それを改めて感じた一幕だった。そういえば、その会社に電話すると、電話保留の音にはコーランが流れていたっけ。
食事の時間となり、取引先と会食へ。食事はイスラム世界であるので食べるものが限られている。しかし取引先は私のことを考えてくれて、近くのケンタッキーフライドチキンの店へ連れて行っていただき、チキンバーガーを食べた。ハラール認定をとったチキンは食べてもいいのだ。
チキンバーガーをほおばりながら、街並みを眺める。
カイロ市はナイル川に面した街とはいえ、街の外側には広大な砂漠が広がっている。国の95%が砂漠だそうだ。実際、街自体がほこりっぽく、なんとなく霞んでいる。(2007年当時)街には相当古い車が走っている。人口は約1億人、国の主な収入は観光、外国への出稼ぎ、そしてスエズ運河。運河の通行料は、例えばLNG(液化天然ガス)船であれば1隻1回につき5000万円かかる。大型コンテナ船では1回1億円ぐらいになる場合もあるとか。さすがに高いので、最近はアフリカ南回りの船も増えたようだ。
ホテルに帰り、ベッドに横たわりながら、砂漠、ピラミッド、モスク、スエズ運河、ナイル川、国際都市など、カイロに関連するカードを並べて眺めてみた。しかしそこから見えてくる最大公約数が、思い浮かばない。イスラム教と言ってしまえばそれまでなのだが、なんとなくそうとは思えなかった。
ふと、ホテルの窓から砂漠の上に広がる夜空に目を向けてみた。
そうか、「1000のミナレット(イスラム教の宗教施設に付随する塔)が宙に向かう」と言われる無数のモスク。そして、毅然と宙に向かってそびえたつ壮大なピラミッド。いずれもが指し示めしている「宙」への畏敬と憧れ。それがここに住む人々の「根っこ」なのかもしれない。
そんな思い付きを確かなものにするためにも、また訪れてみたい都市ではある。