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W杯2022 敵地で日本vsドイツ戦を観た日本人のお話し

当社の社員がドイツ出張中で、ワールドカップ初戦の日本×ドイツ戦を敵地で観戦するはめに。試合結果は皆さん周知のこととですが、さて、その日当社の社員はドイツ人に囲まれてどんな目に遭ったのでしょうか。これは、その社員の壮絶なサバイバルの記録です。


11月20日(日)~11月27日(日)まで、ドバイとドイツに出張した。ドバイでは、タイヤのブチルチューブスクラップのサプライヤーを訪問し、ヤードの在庫状況等を確認。そしてドイツでは、日本の工場に来年納品する機械の出荷前検査が目的であった。

ドバイでの仕事を終えてドイツに入ったのは、ドイツ時間で22日夜。まさにワールドカップのグループEの初戦。日本×ドイツ戦の前夜であった。

空港から宿泊するホテルの付近の駅まで電車で行って、そこからドイツ機械メーカーの工場付近の宿まで、担当者(以後Dさんと呼ぶ)に車で送ってもらった。翌日の23日はオフだったが、Dさんからディナーを誘われている。

当然送っていただいている車内の話しは、仕事の話ではなくワールドカップだ。Dさんは絶対にテレビで観戦すると言っていた。Dさんだけではなくドイツ国民の9割は観戦するのだろう。

「日本の強さはわからないけど、ドイツのチームは若い世代中心で経験不足だから、日本もチャンスはあるよ。勝利をあきらめる必要はない。まあ五分五分といってもいいかな」

Dさんの発言はかなり上目線。さすがサッカー大国ドイツ。強者の余裕があるなと感じた。

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ドイツ戦当日(23日)。本当は興奮を観戦者同士共有できるスポーツパブのような場所で観戦したかった。が生憎このエリアは”ド”がつくほどの田舎の為、周りに日本人はいないし、そんな場所もない。ならば、せめて日本の興奮が伝わる日本のネット番組で観戦をと思ったが、ドイツからは見れない。

仕方がないのでアウェイ気分満載でドイツの中継番組をみた。

運命の初戦はドイツ時間の午後2時にキックオフ。

試合の経過は周知で言うこともない。前半の圧倒的なドイツの戦いぶりはやはり下馬評通りだった。自分も最終的に敗戦に肩を落とす日本イレブンを見るに忍びないと観戦をやめようかと考えたが、ド田舎の宿で他にやることもない。やけ気味にベッドに身を投げて、テレビのスイッチは切らずにいた。

後半、日本の戦いぶりが一変した。それでも、番組の中継スタジオのリポーターと解説者は冷静を保っていたが、続けざまの日本の得点で逆転して以降は、どんどん熱が増していって、アディショナルタイムではもはや狂気の絶叫。そして、ホイッスルが鳴り響いた後のスタジオは…まさに葬式のような雰囲気だった。

日本の逆転勝利にベッドで狂喜乱舞する自分。しかし、やがて自分がどこにいるか気付いた。この後のDさんとの食事の空気が悪くならないか心配だった。

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やがてホテルにDさんがやってきて、地元料理で食事をした。

ワールドカップの話題を話したくなかったのか、ついさっき終了した日本×ドイツ戦の話はDさんの口から出てこない。ならば、こちらから振ってやろうと意地悪にも話題を出す。

「ドイツ日本戦、どうだった?」

Dさんは言葉を選んでいるのか、しばらくの沈黙の後沈みがちな声で答える。

「だから言っただろ50:50だって。とにかく勝利おめでとう」

Dさんは笑顔で怒っている様子ではなかった。だが、その話をしている時に周りのドイツ人に睨まれていた気がしたのは、卑屈な島国根性を持つ日本人の遺伝子のせいだったのか…。

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初戦を落としたドイツの落胆は翌日(24日)の新聞に如実に表れていた。

Katarstrophen=大惨事・大きな不幸・破滅

『ドイツチームは破滅へ進み始めた!』

たいがいメディアは大げさな表現を好むので、キャッチコピーとしては当然リーグ戦敗退の可能性を示唆していた。また、初戦の敗戦の怒りは、日本に向けられてはおらず、どちらかといえば試合前のアピールなど戦いに集中できていない自国のチームに向けられている。

その日、出張の目的である機械メーカーの出荷前検査を行った。日本とZoomでつないで実施。2時間ほどで特段大きな問題はなく終了。その後軽食を取りながら、Dさん以外にも数人の現地のスタッフが集まってきて、再びサッカーの話題になった。みんな日本は強かったと褒めてくれて、無事に仕事も食事も不穏な空気が流れることなく終えることができた。

サッカーが大好きなドイツ人。だが『みんな思いのほか大人なんだな』とその時は思ったが、後から考えるとこの時点では、ドイツの全国民が初戦に負けてもリーグ戦を勝ち上がれないとは思っていなかったのではないかと思う。まだまだFIFAランキング11位のサッカー強国の余裕の表れだったのではないか。

しかし、もしこれがリーグ最終戦だったらどうだっただろうかと、今更ながら背筋が寒くなる。場合によっては、リーグ戦敗退を決めた『三笘薫の“1mmの奇跡”』のジャッジについて食って掛かられ、口答えしようものならボコられてごみ溜めに捨てられていたかもしれない。(まあ、そんなこともないだろうが…笑)

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仕事を終え、意図したわけではないがミュンヘンから帰国する際に、カタール・ハマド国際空港でトランジットした。驚くことに、空港ロビーがサッカーのピッチになっていた。

その他にもカタール航空機内では、機内エンターテイメントでワールドカップの映像が見ることができたり、機内食のデザートにサッカーボールの形をしたデザートが出るなど、カタールはワールドカップサッカー一色。

「COVID-19 Katarstrophen-Over!」そんな明るい世界を予見させるような、今回の海外出張だった。