加藤’s EYE

発散しよう!コロナストレス
ゴム商社マンの世界オフショット紀行⑩~サンパウロからリオデジャネイロへ

今日の出張先はブラジル・サンパウロ。今回は珍しく出張のついでに、観光を楽しもうと衝動的に世界有数の観光都市リオデジャネイロへ足を延ばしたようです。季節も逆の日本の裏側で、この商社マンは日本を忘れ「ブラジル人的」な観光を十分楽しめたのでしょうか。早速お話を聞いてみましょう。


2012年8月某日

取引先があるので、年に一回ぐらいはブラジル・サンパウロに行く。日本の反対側で遠い。日本からブラジルへの直行便はなく、北米などで乗り継いで行くのが一般的。今回は、米国、メキシコで仕事をしてからのブラジル入りとなったので、ほぼ一日機中を過ごすようなことはなかった。

サンパウロは人口約1,200万人。ブラジルのみならず、南半球最大のメガシティである。市街地には高層ビルが、郊外には多くの工場が立ち並ぶ大都会で、ブラジルのみならず南米の経済、文化の中心地の一つである。平均収入もブラジルで最も高く、2009年には個人所有のヘリコプターとヘリポートの数が世界一になったとか。また、「サンパウロ (Sao Paulo)」は、ポルトガル語でキリスト教における聖人の1人である「聖パウロ」の意味。これはよく知られていることだが、漢字で「聖市」と表記されることを知る人は少ないかもしれない。

イタリア系やポルトガル系、スペイン系、ドイツ系、シリア系、レバノン系、ユダヤ系、日系の人口が特に多い他、最近では韓国などのアジア諸国からの移民が増えている。メガシティではよく言われることだが、例にもれずサンパウロは治安が悪いと言われている。だがそれは場所によってだ。どの都市だって地元の人間でなければ行ってはいけない場所がある。幸い市内の中心部は大丈夫なのでひとりで地下鉄に乗って、取引先の待つレストランに行った。

サンパウロでの食事はとにかく肉料理が多い。牛や羊などの畜肉を鉄製の串に刺し通し、岩塩を振って炭火でじっくりと焼くブラジルの肉料理「シュラスコ」などは、日本でもだいぶ広がっているようだが、本場でみる肉の迫力とシンプルさにはやはり本場だと一目を置かざるを得ない。

観光地は別として、ブラジルはポルトガル語で、英語はあまり通じない。日常生活では戸惑うことも多いが、商用に関しては大丈夫。ここの取引先はブラジルでNo1のゴムコンパウンド会社。社長以下みんな英語が堪能なので、食事しながらの会話も弾む。商用が終われば帰国する予定だと告げたら、人生謳歌の達人であるブラジル人としては信じられないようで、呆れ顔で日本人の働きぶりを非難する。いい機会だからリオデジャネイロへ足を延ばして観光でもしてこい。でなければ契約を破棄するぞと脅かされた。

もちろん冗談とは分かっていたものの、彼らの楽しそうな物言いに、たまには「ブラジル的」な衝動的で気ままな観光を楽しむのもいいかなという気分になる。商用を終えた翌日、さっそくリオデジャネイロ行の飛行機に乗り込んだ。

サンパウロからリオデジャネイロへまで、飛行機で約1時間。距離にして約400km弱だから、東京-大阪間ぐらいだろうか。

到着してみると、その美しい景観に目を奪われた。さすが「山と海との間のカリオカの景観群」として、2012年に世界遺産リストに登録された場所だけある。

さっそくマップを見ながらタクシーをチャーター。

まずは有名なロープウェイ(砂糖パンの山)へ。

そこで海側から美しい街の景観を堪能したら、今度は山側からの絶景を楽しみたい。そう思ったら矢も楯もたまらず、チャータータクシーを駆り立てて、あのバリー・マニロウの歌で有名なコパカバーナビーチを駆け抜けてコルコバードの丘(キリスト像)へ向かう。

ああ、着いた、コルコバードの丘だ。

もともと「リオデジャネイロ」という地名には「キリストの神様が見守る街」という意味があるそうだ。

小腹がすいてきたので、丘のカフェで軽食をとることにした。美しい景観を眺められる席に着くと、今までの自分のあり様を思い返した。「ブラジル的」になってリオ観光を楽しもうと思った旅だが、ここまでの忙しい駆け巡り方は「ブラジル的」とは程遠い。所詮日本人は日本人にしかなり得ないのか。

ビールでのどを潤しながら、キリスト像を見上げて考えた。このキリスト様はリオの人々を猊下に、何を担ってお立ちになっているのだろうか。魔よけの像なら魔物から街の人を守るのがお仕事とわかるが、このキリスト様はそんなお仕事をされているとも思えない。 ただ単に両手を広げて街を眺めていらっしゃる。良い人に恩恵を、悪い人に罰を与えるわけでもなく、幸運な人を諭し、不運な人を救うわけでもない。ただ街の人々を愉快に眺めている。これこそ、まさに「ブラジル的」なキリスト様なのかもしれない。

カフェから街を眺めていると、この後の帰国のことが自然と頭に浮かんだ。ブラジルから日本に戻ると、帰国は時差もあり、翌々日になる。フライトが合計24時間と余りにも長い。帰りは、リスボン(ポルトガル)からフランクフルト(ドイツ)経由で仕事をしながら帰ることにしよう。

待てよ、そんなこと今考える必要はないだろうが…。そう独り言ちて、ビールを手に取った。

嬉しいかな、悲しいかな、地球の裏側で自分の日本人としてのアイデンティティを実感する。再び見上げると、そんな自分を楽しそうにキリスト様が眺めていらっしゃった。