マーケット加藤’s EYE

第3部 海外自動車メーカーの動き

アメリカ発の高関税“爆弾”が、世界の自動車メーカーを直撃している。米国が輸入車に最大25

%の関税を課す決定を下したのは4月。それは、日米欧、中韓の大手メーカーの収益構造を一瞬で揺るがす“経済戦争宣言”だった。

最も打撃を受けたのは、米国依存度の高いスバル、日産、マツダ、そしてホンダだ。

スバルは販売台数の7割を米国に依存し、関税未対策なら営業利益3,600億円が吹き飛ぶ計算。日産は最大4,500億円の減益要因に直面し、赤字7,500億円という“過去最大の傷”を負った。ホンダは純利益70%減予測、マツダは米国依存の高さが仇となり、4〜6月期だけで421億円の赤字に転落した。

米国市場はまさに「血の池地獄」

米ビッグ3も無傷ではない。GMは4〜6月期利益が35%減、フォードは8億ドルの関税コストを計上し、54億円の赤字に転落。メルセデス・ベンツは利益が69%減、ステランティスは4,000億円の赤字だ。輸入比率が高いメーカーほど被害は甚大だが、皮肉にも関税回避のための米国内工場増設は、巨額投資という新たな“地雷”となる。

EV戦線も火花──テスラ失速、BYDが首位奪取

一方、EV市場でも勢力図が激変している。

かつて王者だったテスラは、イーロン・マスク氏への反発から欧米で不買運動が拡大し、1〜3月、4〜6月と連続で13%減。統計開始以来初めての2ケタ減だ。その間隙を突いたのは中国BYD。2024年上半期のEV販売でテスラを抜き、世界首位に立った。しかし国内販売は伸び悩み、生産能力を一部で3分の1削減、主力車種の値下げにも踏み切った。在庫は3兆円規模──業界では早くも「第2の恒大」説まで飛び交う。

アジア・新興勢力の台頭

中国・インドでは、新興勢力が存在感を増している。ベトナムのビンファストはインドで年産5万台の工場を稼働、最大15万台まで拡張可能。ホンダはインド二輪車工場に160億円投資し、世界最大級の生産能力を目指す。一方で、ホンダ・日産は米国での協業や基盤ソフト共通化を進め、生き残りに必死だ。

そして日本勢の終わらない苦境

日産はルノーとの資本関係を見直し、インド生産から撤退。ホンダは戦略EV開発を中止し、ハイブリッドへ舵を切る。スズキはインド・欧州で販売不振、マツダは米国関税で直撃を受けた。“軽”の牙城にも中国BYDが殴り込み、来年にも日本の4割市場を狙うという。

世界の自動車業界は今、「関税戦争」と「EV覇権争奪戦」という二正面作戦に巻き込まれ、勝者なき消耗戦に突入している。 問われるのは、莫大なコストを耐え抜く資本力と、世界の需要構造を先読みする眼力。次の1年は、トヨタですら安泰とは言えない激動の時代になる──。