マーケット

ラバー雑学散歩 ~ 酷暑がもたらすゴム産業の変革

はじめに熊本地震や千葉県豪雨で被害に逢われた皆様へ、心よりお見舞い申し上げます。

一日でも早い復興をお祈りいたします。

日本の夏は年々厳しさを増し、2025年2026年は観測史上最高レベルの酷暑となりました。そもそも酷暑日(こくしょび)とは、1日の最高気温が40℃以上になる日のことで、もともと民間気象会社などで使われていた表現でした。しかし記録的な猛暑の増加を背景に、気象庁が2026年4月に正式な予報用語として制定したのです。

かつては極めて稀だった40℃超えを記録する地点が国内で毎年増加し、もはや単なる「猛暑」ではなく、外出禁止レベルの「生命の危機を伴う暑さ」が常態化しつつあるのが実情です。

実はこの猛暑による気温の上昇は、人の体だけではなく私たちの生活を支えるゴム製品にも深刻な影響を与えています。

例えば、車のパーツとしてゴム製品が多く取り入れられていますが、酷暑の日差しの下で、実際に以下のようなトラブルが頻発しているのです。

  1. パワーウィンドウを下げた際、 窓枠のゴムが窓ガラスに貼り付いてそのまま剥がれ落ちた。
  2. 家族を乗せようと後部座席を開けた際、「バキッ」と不快な音とともにドア側と車体側のゴムが接着したように固着して剝がれてしまった。
  3. 走行もしていないのに駐車場内でタイヤがパンクしていた。

その他酷暑でのトラブルは枚挙にいとまがありません。

それらの原因はほとんどの場合、ゴムが気温上昇に耐えられず軟化や劣化を起こし、タイヤでは内部の熱膨張と収縮の繰り返しにゴムが耐えられないことで生じるようです。具体的には、高温でゴムが柔らかくなり粘着性が増して起こる軟化(熱ダレ)現象を生じ、タイヤの表面ではべた付く現象「メルティング」が発生。また、高温によって生じるゴムの分子構造の変化により、弾力性の低下やひび割れ、硬化などの劣化を加速させる現象を生じさせます。

特に車の重要なゴムパーツであるタイヤは内部構造へのダメージも大きく、スチールベルトなど内部材が熱膨張と収縮の繰り返しで耐久性を低下させ、高温による空気膨張で空気圧の適正値を超えて過度な負担をタイヤに与え、それらが連動して摩耗の加速や破損を生じさせる結果となります。

しかしこの酷暑の中、ただゴムが熱に弱いとただ嘆いてばかりではいられません。酷暑と戦う現在のゴムの実態を見てみましょう。

確かに天然ゴムは熱に弱い性質です。ですがその天然ゴムに、配合を施すことにより耐熱性を上げていることは周知のことですね。配合剤にはカーボンブラック(耐熱性や強度を大幅に向上)やシリカ(発熱を抑える)、老化防止剤(酸化やオゾン劣化を抑える)、硫黄での加硫(架橋構造を強化)その他、添加剤によって天然ゴムの性質・性能を高めることが出来ています。これによって天然ゴムは100℃前後まで耐えることが出来るようになっています。

ポリマーの耐熱に関しては、天然ゴム、SBR、BR、NBRなどの順番で強くなっていきます。耐熱温度の実数としては、天然ゴムは70~100℃、SBRは100~120℃、BRは120℃前後。また、その他の耐熱性の高いゴムとしては、EPDM(150℃)、アクリルゴム(170℃)、シリコーンゴム(220℃)、フッ素ゴム(300℃)などがあり、各合成ゴムの耐熱性能によって用途が使い分けられています。

ゴム製品に関する酷暑の影響もさることながら、この暑さはゴム製品を製造する過程や人に対しても多大な影響を与えています。どうしたら人が暑さに耐えうる健全な工場環境をつくることができるか…。そのことにも多くの人が頭を悩ませているようです。

ゴムの成型工場では、殆どがスポットクーラーをフル稼働させています。成型工場の中に、飛行機のエンジンのような大型サーキュレーターを2基、入口付近の天井に吊っているのを見たことがあります。それで強烈な気流を創出して出口側に熱い風を逃がす方法をとっているのです。また設備の他にも作業者の熱中症防止のため、クーリングタイムや水分補給タイムを設けたり、空調服(ファン付ウェアー)を着用したりなど、運用面で様々な工夫を施す工場も増えてきました。但し、余談ですが空調服は精錬工場や粉末品を使う工場では使用できません。何故ならばカーボンブラックや充填剤など配合剤をファンから取り入れてしまい、インナーが汚れるとともに体にも悪影響を及ぼしてしまうからです。ならば、他にどんな対応策が考えられるのか…。工場関係者は日々その対策に頭を悩ませ、酷暑に対応する前例のない工場環境を創造せざるを得ない状況といえましょう。

40℃を超える酷暑は、私たちのゴムビジネスにも多大な影響を及ぼしております。

ゴム製品は軟化・劣化・内部損傷を加速させ、ゴム加工メーカーでは工場環境や働く人々への暑さへの根本的な対策を余儀なくされています。そして、さらに日本の夏は今後も厳しさを増し、それを止めることは当面不可能だろうという予測は、ゴムビジネスの更なる変革を強要するのです。

ゴム製品の耐熱性とコストパフォーマンスの向上を図る品質研究。暑さに負けない会社体力を維持する効果的な設備投資。それはまさに暑さに耐えうる新しいビジネスビジョンを設計することです。そしてそれは、世界中が目指している「SDGs(持続可能な開発目標)」の13番目の目標(気候変動に具体的な対策を)に加え、18番目として加えてもいいゴールといえるかもしれません。